【生産者 SPECIAL STORY】阿部留商店:タンタン、パカン!あたたかい白飯に映える黄身の味におもわず舌鼓。
偉大な発見と偶然が生み出した温泉街の名物
福島市郊外にある飯坂温泉。かの俳聖松尾芭蕉も訪れた有名な温泉街である。街のシンボル十綱橋(とつなばし)を渡るとすぐに見えてくる合資会社阿部留(あべとめ)商店は、名物の「元祖ラヂウム玉子」を製造・販売する店として古くから親しまれている。
「当店は創業が明治11年。当時は青果店でした」と話す、4代目候補の奥田健さん。「じつは阿部留商店は祖母の実家なので、自分が継いだら4代目になると思います」と笑う。
歴史深い阿部留商店がラヂウム玉子を作り始めたのは大正時代。2代目が共同浴場で手ぬぐいに包んだたまごをゆで卵にしようと熱々の源泉に浸したことが発端だと言う。奥田さんは「源泉に浸けたことを忘れた2代目が家に持ち帰って食べたら、こりゃ美味い!と商品化されました。偶然の産物だったみたいですね」と経緯を教えてくれた。
温泉に浸けてできたのになぜラヂウム玉子なのか? それは日本で初めてラヂウムの存在が確認されたのが飯坂の温泉だったからだという。
「だからうちは、元祖ラヂウム玉子という商品名なんです」と奥田さん。
失敗の積み重ねの末に完成したこだわりの逸品
今では飯坂温泉の旅館では朝食に欠かさず並ぶラヂウム玉子だが、名物になるまでは“たまごの無駄づかい”とまで言われるほど、試行錯誤が続いた。たまごの種類から温泉の温度、浸ける時間など何度も失敗を重ねながら商品開発に取り組んだ。そして次第にその努力が実を結び、人々から愛される逸品になった。
「うちは鶏のエサからこだわったラヂウム玉子専用の鶏卵しか使っていません。浸ける温泉も飯坂温泉の源泉100%、加水や加温をしないお湯を使っています。源泉の温度や気温は毎日ちがいますから、お湯に浸ける時間もちがいます。このトロッとした食感や黄身の甘さは自然との駆け引き、それに経験が成せる業(わざ)がないと作り出せません」と話す奥田さんからは作り手のプライドを感じる。
こだわり抜いて作られるラヂウム玉子だが、仕上げのこだわりもある。販売当初から一つ一つ紙で手包み、箱を包む包装紙も飯坂温泉のシンボルでもある「十綱橋」があしらわれており、これは販売当初から引き継がれている。
「やっぱり街のシンボルとともに親しまれてきましたし、うちの歴史の象徴ですね」
奥田さんの眼差しは、お気に入りの絵画を見ているかのようだ。
これまでの100年から、この先の100年へ残していく
大正時代から作り続けられてきたラヂウム玉子。この歴史と伝統のある名物について、これからの展望を聞いてみた。
「作り続けて100年以上。今度はこれからの100年に向けて作り続けていきたいと思います。地元や近隣ではラヂウム玉子という名前は知られているが、全国的にはまだまだです。“福島=ラヂウム玉子”と連想できるくらい認知度を上げたいですね。そしていつまでもラヂウム玉子の伝統と文化を残していきたいです。世の中、美味しいものはたくさんありますが、そのなかで『ラヂウム玉子って美味しいよね』と選んでもらえる商品になるようにがんばります」。
4代目候補の奥田さんの言葉からは溢れる“ラヂウム玉子愛”は、未来永劫、受け継がれていくことだろう。
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生産者インフォメーション
阿部留商店
WEB | https://abetome.com/ |
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住所 | 福島県福島市飯坂町湯野字橋本5 |
TEL | 024-542-2680 |
営業時間 | 8:00~19:00 |